島津法樹さんのコラム
初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。
第106回
商品学(インド編)
ガンダーラ―トライバルエリヤで見た偽物だらけの世界
 
2,3世紀ガンダーラ菩薩立像


かつて怖いもの知らずで
パキスタン北部をうろついていた事がある
(拙著「亜細亜骨董仕入旅―仏の発掘」参照されたし)。

ペシャワール盆地、タキシラ、スワトウ、カイバル峠を越えて
アフガニスタンのハッダまで行った。
僕はここで初めて砂漠というものを見た。
(イエメンの砂漠のほうが本格的だったが・・・・・。)
ペシャワールから石ころや砂ばかりのところを
車で走って行くと、いわくありげな岩山があって
その上に登ると僧院になっていた。
そこの石積みの僧院やストゥーパには
ひとかけらの石彫さえ残っていなかった。
宗教的破壊のすさまじさ、
それに続く西洋人の略奪の徹底した跡を見て唖然とした。

道中そこの百姓たちは小銃や拳銃を手仕事で作っていたが、
ついでにガンダーラ仏のコピーをせっせと作っていた。
ディーラーの僕が覗き込んでも、
あっけらかんと黒い石をカチカチ刻んでいた。

「そんなものどうすんの?」と聞くと
「土に埋めて、しばらくしてから骨董品として売るのだ」
と言っていた。
「カラチやあんたみたいな外国人のディーラーが
 良い値で買ってくれる」と。
お土産用にはセメントや樹脂に石の粉を混ぜ、
型に入れて作る方法があると言うのだ。

我々がガンダーラと呼んでいるのは、
パキスタン北部からアフガニスタンに掛けての地域と
カブール一帯、スワトウ渓谷を含むあたりを指している。
しかし、この地域の像を観察すると
各々の地域で石質や造形がかなり違う。
ガンダーラ地方、いわゆるペシャワール盆地を
ガンダーラと地元では呼んでいる。
そこの石像は大体が青黒い片岩や千枚岩で作られている。
それらはストゥーパや寺院の基壇に彫られているもので、
釈迦の一生を描いた仏伝を主題としたものである。
頭髪はウエーブが掛かっており、
ヘレニズムの文化の影響を強く受けたものと言われている。
マトゥーラやグプタのような羅髪が施された仏陀像は少ない。
そして釈迦の姿ばかりでなく
菩薩像が多いのもその特徴となっている。

小さな作品は表面が粗く、表現が硬い。
ガンダーラ美術をやるなら偽物をつかまない様、
しっかりと勉強しなければならない。
ともすると、シルクロードやヘレニズムの文化などと
ロマンを掻き立てられたあげく、
カチカチと刻まれた新作ガンダーラを買う羽目になる。