島津法樹さんのコラム
初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。
第111回
<とぴっく10>
脚下照眼―旧家の蔵は要注意!
 
蔵の逸品(その2)甲冑


そんな時先程入ってきた蔵の扉の横に
茶色く変色した藁縄で縛った皿が目に飛び込んできた。
銃はもう飽き飽きするほど見たので、
陶器でも見せてくれないかな~と思っていたところだった。

「あれなんですか?」
「昔からあるもので、伊万里かなんぞの皿ですよ」
と気のない返事が返ってきた。
「ちょっと見せてもらっていいですか」
と、Yさんの返事も待たず、入り口に行きしゃがみこんだ。
重ねられた皿の藁の部分を片寄せて中を覗き込んだ。

「なんと!」
生がけ独特の柔らかい釉肌がのぞいている。
初期伊万里の皿だった。
絵付はどんなだろう、
と力を入れて藁と縄を大きく掻き分けると、
「ブスッ」と低い音がして縄が切れてしまった。
もう殆ど腐っている状態だったらしく
当主もこちらを見ているが、別に文句を言う風でもない。
しかし、僕はほっとした。
縄を掴んで持ち上げていたら
今頃2、3枚割っていいたことだろう。
Yさんは詰まらんことをやっているな
と言う顔をしてこちらを見ている。

「すみません。縄切れてしまったようです」
「ええよ。ええよ」と鷹揚に言ってくれた。
おかげで皿の文様もはっきりと見えるようになった。
「ひえ~」
中央に吹き墨の兎。
それに石榴と月白兎と書いた短冊の絵が施されている。
直径は20cmくらいの皿で、骨董愛好家が言う7寸皿だ。
数えてみると10枚あり、
それぞれ美しい傷のないものであった。
少なく見積もって1枚150万くらいはするだろうと思った。
(当時大卒の給料が1ヶ月確か10万くらいだったように思う)
鉄砲のことは僕の頭の中からすっかり消えてしまった。

「これゆずってくれませんか?」とYさんを見た。
「ええよ」と一言簡単に言われた。
そしてこんなものどうするんだと言う顔をした。
ゴクッとつばを飲み込んで、
一番大切なことをさらっと聞いた。
「いくらで譲ってくれます?」
「幾らでもいいよ。そんなの」
と言って中の一枚を下駄で軽くこんこんと蹴った。
僕は思わず皿を抱え込んだ。