初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。
第21回
 
仕組まれた手口、カラチ商人との攻防
 
 
 

20年ほど前、インドの彫刻や

ガンダーラのレリーフを仕入れようと

かなり危ない橋を渡ったことがある。

はじめカラチに入ってバザールの

あちこちを覗いて回ったが

殆どが偽物ばっかりだった。

それでも何とかましな商品を

入手して取引を終えた。

これ以上骨董を探しても

無駄だと思ったので

絨毯のいいものがないかと

方向を変えた。

絨毯店ではイランから

密輸で運ばれてきた

コムの絨毯があると言われ

見せてもらった。

素晴らしい織りの絨毯で

同じようなものが

有名百貨店で1枚

300万から500万くらいで売られていた。

事情を聞いてみると、

このペルシャ絨毯はイランの

輸出税がかからないし、

小さな快速艇で直接カラチに

運ばれてくるから

ここが世界で一番安いと言うのだ。

初め1枚5000ドルといっていたものを

五時間ほど粘って10枚買うからと言って

1枚1500ドルにまで値切り倒した。

「もう勘弁してくれ。アンタも社長、

私も社長。お互い会社をやっていくには

少しは利益も必要だろうが」

とまで言われて手を打った。

そんなわけで支払いを済ませ、

偽物をつかまされても困ると

思って梱包のときも立会い、

1.8メートルくらいの長さで

電信棒くらいの太さの梱包を

3つ作ってもらった。

カラチ空港をパキスタンエアーで

夜中に出る便を予約していたので

半金払い、半金は空港と言うことで

運んでもらうことにした。

勿論絨毯は出発するまで

ホテルに持ち帰っていた。

ホテルのチェックアウトを済ませると

小型トラックで絨毯屋の社長と

運転手がやってきた。

トラックの後ろに絨毯を積み込み

空港へいく途中、

金を支払ってくれと言うので

「全部終わって機内持込のタグを

もらうまではだめだ」

とその話を蹴った。

空港に着いて「じゃあ通関してきます」

と言って、社長と運転手が税関の方へ

3本の荷物を持っていった。

暫くすると税関と社長と運転手が

ぶつぶつ言い合いながら

僕のところへやってきた。

「ミスター、これは違法にパキスタンに

入ってきたものだから没収します。

 しかもあなた10枚も持ち出すのは

密輸出ですよ」と

とんでもない言いがかりを税関がつける。

「僕はこの人から買ったんだけどね。

だめだったらお金返して」

と言うと社長は僕に

「あなたね。5000ドル払ってください。

話をつけますから」と

耳もとで囁いた。

税関氏は難しい顔をして

「没収、没収」と言うし、

絨毯屋は「5000ドル、5000ドル」と

かしましい。

僕もちょっとパニクってしまって

「2000ドルで何とかせいや」と

絨毯屋に交渉させた。

結局それで手を打ったが

どうもそこは出来レースだったような


気がする。

そしてまだもう一段難問が

待ち構えていた。

パキスタンエアーのタラップの下に

何か見覚えのある荷物が3つ転がっていた。

飛行機はエンジンをゴー、ゴー

吹かしているし、タラップの上から

シチュワードが手招きをしている。

しかし気になって荷物を確認すると

やっぱり僕の絨毯だった。

渋る乗務員をタラップの上から

引き摺り下ろし、

「おまえんところの不手際だよこれは。

 荷物をこんなところにおいて、

いい加減にせい」と

言って手伝ってもらった。

もし確認しなかったら

きっとあの荷物は

行方不明になったに違いない。

パキスタンで取引をするときには

最後の最後の最後の最後まで

気を抜かぬこと。

これに尽きる