初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。
第25回
 
悪い骨董屋(海外編)−だましの手口
 
 
 

「どんなものが揚がってくるか

分からないし、

 海上がりはかなりダメージも大きいよ。」

「そうなんだよ。そこが問題なんだ。

 でも中にはいいものがあって、

 ヨーロッパ辺りに飛ぶように

売れているんだ。

 特にオランダ人が買うんだなこれを」

確かにマーケットに清朝中期くらいの

染付の一群が出ていたし、

南宋時代の影青風な作品もかなりな

数が出まわっている。

しかしどれも大して魅力的では

なかったので、そこを突いた。

「今揚っているものは日本では

たいした値打ちもないよ。

 南宋の青磁でもあれば別だが」

「それがあるんですよ。損はさせない。

 二千ドルほど預けてください。

 きっとあなたの希望するものを

持ってきますから」

という風にどんどん自分の都合の

良い方向へ

人を褒めながら持っていってしまう。

彼は天才的な話術を心得ていた。

僕は危ないと思ったので

この話には乗らなかった。

あるとき親父と話しているとき

客が入ってきた。

あまり骨董は詳しくないと見えて

真剣にコピーの明染付の瓶を見ていた。

親父はスーッと近づいて

「お客さん、いい目をしてますね。

 この染付の瓶は値打ち物ですよ。

美術館クラスです」

と持ち上げた。

客もまんざらでもない顔で

「幾ら?」と聞いた。

「安くしときます。

 本当は5000ドルはするものですが

 事情があって500ドルなんです」

というと客はびっくりした。

さすがに500ドルと言われて、

ほんとかなという感じで高台の辺りや、

瓶の口をしげしげ見直している。

「何故こんなに安いの」と

首をかしげながら聞いている。

「持ち主がね、一日も早く売りたいと

言っているのです。

 それにしてもお客さん正直ですね。

 高いと言われることは

ちょくちょくありますが、

 安いと言われたのは初めてです。

正直な方だ」

と言って客の背中に手を回したかと

思うとバンバンと背中を叩いた。

これで客はころっと参ってしまって、

財布から500ドルを取り出した。

それを見て、なんとすごいことを

やるのかと感心した。

受け取った500ドルに口づけをして

机の引き出しに仕舞った。

30分ほどして先ほどの客が

赤い顔をして入ってきた。

どうやら他の店で先程の染付の瓶を

見せたようだ。

けちを付けられて返しに来たのだったが

親父はなんだかんだと言って

その場を切り抜け、

さらにもう300ドル偽物を

売りつけてしまった。

海外にはこんな手合いの店が

少なくないから気をつけよう。