初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。
第48回
商品学(ベトナム編)

4.ベトナム陶磁 II

わらしべ長者も交渉次第

インドネシアで商売をやっていると

時々いいものがあるから金を

預からせてくれとか、

高値で売ってやるからといって

品物やキャッシュを持っていかれて

しまうことがままある。

そんな時は預けたやつがアホ。

これが原則。

この瓶は450万も払っているのだから

そのまま渡すと戻ってこなくなることは

ほぼ確実だった。

僕はしばらく考えていたが

彼の持ち物で同じくらいの値打ちモノを

こちらへ引っ張っておくことにした。

「アオン、何か代りのもの僕にも見せて」

と言って彼がいつも大切なものを

置いているベットの下辺りに目をやった。

すると彼はベットの下を覗き込み

鍵つきの箱を大切そうに

引っ張り出してきた。

鍵の暗証ナンバーをごちゃごちゃ

回しながらボタンを押すと

バッシッと小気味よく鍵が開いた。

中から40センチほどの

目もさめるようなムスリムブルーの

花文大鉢が出てきた。

思わず「ほー!」とびっくりすると

「これはミスターチャンからの預かり物だ」

と彼が言った。

僕が今までに見た安南の陶磁器の中で

一番美しいと思われる大鉢だった。

トルコのイスタンブール

トプカプ宮殿にある

天球瓶をしのぐ逸品だった。

釉裏紅の瓶を預け、渋る彼を口説き落とし

大鉢を大慌てでホテルまで

引っ張って帰った。

その日の夕刻、アオンが僕のホテルに来た。

「アンタね、後2万ドル付けてくれれば

 釉裏紅の瓶と安南の大鉢交換でいい。

 とチャンが言っている」

と、ブスッとした顔つきで言った。

よほどその場で了解しようと思ったが、

ぐっとこらえて

「こちらに2万ドルくれれば

交換してもいいよ」と食い下がった。

丁々発止の駆け引きもあったが

お互い一応イーブンの交換ということで

話は付いた。

この大鉢をアートオブアジアという

美術雑誌で広告したところ

世界中から問い合わせが殺到した。

数ヶ月前に釉裏紅の瓶を同じ雑誌に

掲載したが、一件の問い合わせも

なかったこととは大違いだ。

大鉢はさる有名な美術館の所蔵となった。

優れたベトナム陶磁は

我々が東南アジアの陶器といって

格下に見ているが

実際はかなり値上がりしている。

ある意味では中国陶磁をしのぐ人気を

博しているのだ。

このトレンドはこれから益々

高まっていくだろう。

 

14世紀 安南青花大鉢