第6回
東南アジアの骨董
 
 

骨董世界を見渡してみて、

今一番熱い地域は

東南アジアと中国であろう。

三十年ほど前に、僕が東南アジアを

うろつきまわった時

そこには限りない広さと、

あちこちに存在する

未知なる世界があった。

しかし今地球はせいぜい

巨大な都市くらいの感じしかない。

あそこへいけばこんなものがある。

あの街の角のレストランはうまい。

ここは危険だなどと細かい情報が

いくらでも入ってくる時代だ。



骨董だって30年前は東南アジアから

運んできて説明すると

皆がヘーッとびっくりして言い値で

買ってくれたものだ。

「これはね、14世紀に作られた

スコータイの鉄絵の作品です。

 タイのラームカームヘン王が

中国元の皇帝に使者を送って

 磁州窯から陶工を呼び寄せて

作られたものなんです。」

と説明すると何も言わずに

買ってくれたものだった。

今はインターネットで同じようなものが

どこかで値段がつけて売られており、

それと比較されるようになってしまった。

このように世界中の情報が瞬時に得られ、

骨董もビジネスとしてのうまみ、

情報の独占によるチャンスが

無くなってしまっている。

それだけに社会が成長している地域の

骨董を扱っていくことが

とても大切になるだろう。



また東南アジアはその地勢的な関係から

中国やインドのすばらしい文化を吸収し、

さらにヨーロッパの文化をも

取り込んで多様な文化を熟成している。

そのためにそこで生み出される作品は

グローバルな評価を得るのに

十分な内容を持っている。

ただ、まだ経済的に途上段階にあって

我国では評価が低い。

ブランド好きな日本人にはそういう意味で

この地域の作品がぜんぜん見えていない。

しかし、今後この辺りの美術工芸品が

高く評価される時代が来ているのだ。



一例を取るとカンボジアの良い

石彫物などはガンダーラの石彫仏などと

比べても遜色のない値段で

クリスティやサザビーズも

取引されている。

陶磁器などにおいても15世紀の

ビルマの緑絵作品などは

皿一枚が数百万の単位で

実際に動いている。

インドネシアバティックも

せいぜい19世紀から20世紀初頭の

作品であるが

世界でももっとも評価の高い織物である。

タイ、7・8世紀頃のダヴァラヴァティの

仏像などは、我国の平安仏と比べても

評価は高いも知れない。

インドネシアやフィリピンの

プリミティブアートには

欧米のコレクターたちの

静かで熱い視線が注がれている。

まだまだ、探し出せば一攫千金をつかむ

チャンスが転がっている。

海の中、ジャングルの中、河の横、

お寺の蔵をのぞいたらどうだろうか。