初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。
第70回

商品学(カンボジア編)

3. 石像−地雷原の先は!
 


カンボジア美術の白眉は

なんと言ってもヒンドゥーや

仏教美術の石彫だ。

今のベトナム・カンボジア国境近く、

アンコール・ボレイ付近の

プノム・ダの丘に

5世紀ごろ巨大な横穴を穿った

ヒンドゥー寺院が築かれている。

僕も赤土の平地にぽつんと聳える

プノム・ダの丘に登った。

そこらここらに髑髏マークの

縄張りがしてある。

地雷危険地帯の物騒なところだった。

前を行く案内の百姓が

「私の足跡を踏んでついてきてください」

と何回も念を押すほどの道だった。

ここから運びだされたハリハラ神

(ヴィシュヌとシバ神の合体神)が

パリのギメ美術館に収蔵されているが、

本当に素晴らしい。

さらにカンボジア中部、コンポントム州、

プラサット・アンディエート寺院から

発見された7世紀のハリハラ神がある。

それをプノンペンで始めて見たとき

僕はあまりの神々しさに

声を上げて泣いた。

ちょうど素晴らしい音楽を聴き感動する、

そんな気持ちだった。

誰でもこんな神像にめぐり会うと

欲しくなるのだろう。

ジャングルの中に蛇行する河川に

筏を浮かべフランスの探検家が

石像を運び出す場面を

エッチィングで表したプリントがある。

150年も以前、マラリヤやコブラなど

様々な困難を乗り越え、

古い崩れ落ちた寺院からパリに運ぶ

一こまを描いたものだ。

フランス植民地時代、

分けてもアンコールワット発見以後の

100年間に多くの石像の流出があった。

それらの作品は今日タイやフランス、

アメリカなどで美術館に

蒐集されているか、

個人コレクションとして秘蔵されている。

時折売りに出されるがそれらは

天文学的な値段が付いている。

しかし、素晴らしい6世紀から13世紀頃の

クメール彫刻の逸品が

今また、アジアのマーケットに

いろんな理由があって出現している。

美術コレクターにとって

こんなチャンスは二度と

出会えないだろう。

しかし、クメール美術は150年ほど前から

恐ろしいほど上手な偽物が出回っている。

誰もが知っているいくつかの著名な

美術館の収蔵品にも

僕の鑑定では、偽物が入っている。

いつの日にかアジアの美術大国日本で

クメール美術の大シンポジウムでも

やれば楽しいだろう。

それをきっかけにクメール美術の研究が

一挙に進むだろう。

僕はその時までにしっかりとした

コレクションを構成し、

研究をしたいと思っている。

それにヒンドゥーの石彫神像を

部屋に置き、

観葉植物を入れると一変に部屋の

空気が変わり

10世紀の世界に誘ってくれる。

この気分は何物にも変えがたい。

 


 
   
アンダーナリシバラ

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