島津法樹さんのコラム
初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。
第112回
<とぴっく10>
脚下照眼―気の変わらぬうちに支払いを
 
蔵の逸品(その3)初期伊万里皿吹墨の兎


「あんた、値段をつけて。専門じゃないから」
とYさん。
「30万でどうですか?」と僕はよ~く考えて言った。
安すぎて断られては2度とチャンスはない。
高く買っても馬鹿らしい。
彼は僕の顔をあきれたように見ていた。

しまった。
1枚50万くらいと言ったほうがよかったか、
と悔やんだがもう言い直せない。
「そんなボロ皿見当違いをしたらあかんよ。
 30万も出せば100枚ほど買えるのと違う?」
と言い、見立ては大丈夫か、と言うような顔をしている。
しかも彼は1枚ではなくて
10枚で30万と受け取っているのようだ。
そう言われると心配になってきて、
もう一度しっかりと見直したのだが、
初期伊万里で最も人気のある吹き墨の絵付だった。
それに傷けもない。

「いいです。1枚30万円でもらいます」とはっきり言った。
「えっ!1枚30万か」
一枚30万円と聞いて、彼はちょっと考え込んでいる。
そして、
「一番いいのと一番悪いのとを外して、8枚持って行っていいよ」
と少し慌て気味に言った。
気が変わらないうちにと
8枚の皿は早々に新聞紙をもらって包んだ。
それに手持ちの5万円のお金を
彼に手付けとして無理やり受け取ってもらおうとした。
さすが旧家の当主、
お金を渡すと「いやいや」と言ってなかなか受け取らない。
それをなんだかんだといって頑張った。
受け取ったお金をYさんは胸のポケットに入れつつ言った。

「島津君、残りのお金は僕に直接渡してくれる?」
「はぁ?」
「女房がうるさいからね」
こんな大きな家に住んでいても難しいことがあるみたい。
「いいですよ。じゃあ明日直接持ってきますから」
「すまんな」
彼は確か養子と聞いた。