島津法樹さんのコラム
初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。

第126回

<とぴっく10>
へとへとの交渉

 
清染付花生


「アンタ、どこからきたんや?駆け出しやな」
と身を反らせながらさらに厳しい挑発を仕掛けてきた。
そこへデパートの担当者が転がるようにやってきた。
「社長、社長、社長!毎度お世話になってます」
と、腰をかがめて言った。
客はそんな彼には目もくれない。
「変わった値段出しよったで」
と、巻き舌で担当者を叱り付ける様に言った。
「新しい取引先なんで社長の事知りませんから、
 申し訳ありません」
とペコペコして僕のほうをグッとにらみつけた。
「ちょぼっとしか引きよらへんのよ」
とさらに担当者をプッシュした。
彼は僕のほうを向いてもう一度怖い顔をした。
「社長にはもっと頑張って値をつけてくれなアカンやないか」
と尻馬に乗って言う。

慣れない背広着てデパートの催事場に立っていると
僕も調子が狂ってくる。
しかし何もかもグッと飲み込んだ。
「分かりました。社長、値段つけてください。
 全部うちのものですからあわせます。」
と放り投げた。
担当者は、なにすんねんという目で僕を見た。
「ちゃんとそろばんはあわせます」と小声で断った。
「兄ちゃん、ええコンジョしてとるね。ほんまにええんか?」
「いいですよ」と言うと、彼は指を一本立てた。
どこまでも理解しにくい人だ。
催しの出品金額の合計は売値で2500万円ほどだ。
デパートへの仕切りでざっと1700万円くらいだろう。
僕が泣いてデパートに無理を言ってしのごうと考えたが
どうも面白くない。
「社長、1本って1万円ですか」と、とぼける作戦を取った。
「ワッハ、ハ、若いのにおもろいやっちゃ。皆こうちゃる」
と言って手を広げ、
担当者に後からもってこいと言いながら帰ってしまった。

「あの人、本当に買ってくれるんですか?」と訊いた。
「さぁ~」と彼も不安そうに顔を曇らせた。
「あの社長ね、ビル75棟、ゴルフ場3つ、結婚式場と
 スーパーマーケットのチェーン店を経営しているんだがね」
と付け加えた。
「じゃあ、とりあえず完売ということにしましょう。
 いつ届ければいいか訊いてください」と言うと
「その辺の交渉はあんたがやってくれ」と言われた。
トラブルを避け、
難しいことは出入り業者にやらせるケースは結構多い。
翌日電話すると「明日来い」と社長に言われた。

・・・この項続く


 
18世紀英国三彩透かし文皿