初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。
第30回
商品学(中国陶磁編)

2.漢緑釉(2)

殆どの人が損した作品
 
 
 

買っても買っても漢緑釉の作品は

尽きない泉のごとく

滾々と中国大陸から

湧き出てくるのだった。

とうとう10万円を割ってしまう

大壷も出てきた。

あるコレクターなど、

この時期に相場を張るみたいに

漢緑釉を買い集め200個近く

買った人もいたらしい。

その人は

「2000年も前に作られた本物の漢緑釉の

壷が、30万や40万で入手できるなら

 中国大陸にある緑釉の壷を

全部買ってやる」

と豪語していたらしい。

が、さすがに200個を超えると

置き場所に困り、

奥さんにいやみも言われるので

やめてしまった。

この話は本人から直接聞いたことだ。

あまり値下がりすると僕も

買う気をそがれ、

またお客さんにも迷惑がかかるので

この種のものの仕入を控えた。

中国人ディーラーに聞いてみると

漢の墳墓は埋蔵品が桁違いに多いらしい。

1箇所の古墳を発見すると

膨大な量の陶磁器が出てくると

言っていた。

後漢時代は中国の歴史上でも

最も厚葬の風があって、

大壷だけでなく生活に密着した

様々な造形の作品が作られている。

緑釉や褐釉の豚舎や城塞、水禽、竈、

井戸、犬や豚、楽人たちを見ていると、

漢代の人々の生活を覗き見しているようで

興味深い。

これらの作品は嘗て古代の人々の生活を

知る重要な資料として

世界中の美術館が蒐集して

展示したものだから

コレクターも競って買い求めた。

日本の古美術品といえば茶の湯の道具、

あるいは仏教美術といわれるところが

中心だったが、

昭和初期に中国の発掘陶磁が渡来し、

鑑賞陶器というジャンルが確立され、

一大ブームを巻き起こした。

この時は古墳の発掘もごく

小規模であった為、当初低かった値段も

急カーブで上昇したという。

以降戦後長い間、中国本土の発掘は

全く止まってしまい、

価格は高値安定が続いていた。

そこへ降って沸いたように文革で

各地の古墳が発掘され、

多くの副葬品が現れた。

ちょうどその頃市場経済の導入によって

拝金主義が生まれたため、

古美術品の流通が大きくなったのだ。

しかし、コレクターはこれ一つだと

思うから買うのであって

同じようなものがどんどん出てくると、

どんなに安くても購入を躊躇してしまう。

飽和点に達した漢緑釉の作品が

元の価格に戻るのに

10年は十分かかるだろう。

しかし、2000年も前の素晴らしい文化財が

20,30万で購入できるのだから、

良いものを選んで買っておけば

きっと楽しい夢が見られる。