初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。
第53回

商品学(タイ編)

2. タイ陶磁―裏も表もある世界

サワンカローク窯の逸品


タイ中部、サワンカローク地方

(シ・シャッチャナライが窯のある場所)の

焼き物を日本風な呼び名で

宋胡録(すんころく)と呼んだ。

スコータイ窯の作品も同様に

呼ばれることもある。

この地方で作られた焼き物は

大よそ13世紀末から15世紀頃に

掛けて焼成されている。

しかし一部の香合など小物類は

16世紀頃まで作られていたと思われる。

それらの中に江戸初期頃、

我国に渡ってきたものがある。

これらは当時の茶人に愛好され、

茶の湯で用いられた。

松平不昧公の雲州蔵帳に

記載された値段を見ると

柿の実に似た形物香合1つが

250両となっている。

正確ではないが今の金額に直すと

ざっと二千五六百万円ぐらいだろう。

サワンカローク窯の作品は

中国の磁州窯や景徳鎮窯、

龍泉窯の影響を濃厚に受けている。

この窯の作品で僕は3つの種類を

追いかけている。

一つは美しい青磁。

青磁釉の透明感が強くて

色調がはっきりとしたもの。

蓮華や睡蓮、牡丹の花などが

くっきりと彫り込まれた

目のさめるような美しい水注や鉢がある。

次に褐白釉を掛け分けた

繊細な刻花文の作品。

この手の良いものはほとんどが

王宮やそれに順ずる大寺院の使用器を

焼いたシー・サッチャナライの

コーノイの窯で焼かれたものである。

三番目に注目しているのは

作品数が非常に少ない青磁鉄絵である。

この手の作品は同種のものが

朝鮮半島の青磁にある。

所謂絵高麗である。

タイの青磁鉄絵は

魚文や草花文の優品があって

高麗青磁に勝るとも劣らない

出来ばえである。

上記した三種の作品で本当に良いものは

スコータイやシ・シャッチャナライの

王宮遺跡から出土したものだ。

また少しレベルは落ちるが

インドネシアやフィリピンでも

発掘されている。

タイの経済はこれから

益々発展するだろうから

タイ陶磁のしっかりとしたものは楽しめるし、

長い目で見れば面白いことになるだろう。

しかし、大きな傷があるものや、

レベルの低いものは

いつまでたってもだめだ。

昨今タイでは非常にうまい偽物が

出回っている。

窯跡から高台(皿や壷の底)を

掘り出してきて

新たに粘土を貼り付けて、

壷や皿を復元再生してしまう。

大概陶磁好きは高台の中を見て

その土がオリジナルであれば

良いものとして認めてしまう。

こんな高等テクニックを使っても

偽物つくりをやると言うことは

タイ陶磁の値段が上昇していることと、

人気があることの証左だ。

 

14世紀 サワンカローク窯
青磁刻花文盤
15〜16世紀
 宋胡録柿香合