島津法樹さんのコラム
初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。
第99回
商品学(インド編)
99×99 の秘密I
 
インド人


インドでIT産業が興隆する理由は2つあるといわれている。
そのひとつは英国の植民地であった為、
英語が話せる国だということだ。

二つ目は数字に強いということだ。
NHKの報道だったと思うがとても興味深い解説があった。
黒板の前に立った男性が二桁の九九を暗算でやっていた。
その時画面を見ながら僕は
なぜ二桁の計算を暗算でやらなければならないか、
という点を深く考えた。

骨董仕入に世界中駆け回っているが、
僕の見たところ世界で一番タフなネゴシエーターは
インド人だと思う。
このことに異論がある方は少ないだろう。
押しては押し、こちらが引くとまた押してくる。
それくらいシビアな人達だ。
昔計算機も何もない頃の話。
厳しい取引をするのに一々紙に計算していては負けてしまう。
そんなわけでインド人達は商売の為に
必死に二桁の九九を学んだのだろう。
だから数字に強いのだ。

そのとき番組ではゼロの概念を発明した哲学的なインド人の
数学に対する天性の能力というような解説をしていたが、
そんなことは絶対ないと思う。
僕も取引の必要から、
為替の計算や相手の言う原価がいくらかというような
腹の中を読む計算はしょっちゅうやる。
ドルで払ったほうが得か円で払ったほうが良いか。
瞬間に暗算して交渉するのだ。
値切り倒した上に、さらに為替で少しでも有利なほうを選ぶ。
今回のインド旅行でもこんなことがあった。

ベナレスの織物屋へ行ったときのことだ。
計算高そうで、エネルギッシュな支配人がやってきた。
「あんた!この店で一番いい織物を見せて」と僕が言うと、
頭の先から足の先までじろっと見た。
そしてちょっと冷たそうな雰囲気で
「何が欲しいんですか?」というのだ。
僕はウエストポーチのファスナーをジィーと音を立てて開けた。
そして中の一万ドルの札束をチラッと見せるともなく見せた。